こんなニーナがいてもいいのかもしれない。
とりあえず僕はオーケーだ。


以下ご注意

☆R-15です。

☆黒攻めニーナです。おそらく。


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…アンタには、何気ないことだったのかもしれねえけど。

日も落ちていないのに、重たい曇天が広がり太陽を飲み込んでいた。
薄暗い陰を作る部屋の中、強い風が小刻みに窓枠を揺らし、
時間の感覚も分からないまま、繰り返される二人の息遣いだけが耳を塞いでる。

今は、この薄い布一枚の距離でさえもどかしい。それでも、
力任せに体を押し付けた上からアンタの挙動は手にとるように分かる。
こうなった以上逃げ出そうとしてもムダだし、そろそろ諦めたら?
これまでずっと、仕掛けてきてたのはそっちの方だから。
今日はもう、いつもみたいにここで止めるつもりはねぇよ。 アンタがオレを受け入れるまで。


【リバーシ】

捉えどころがなくて、手に入れようとする度に妖かすようにするりとかわし、指先を抜けていく
思わせぶりなその態度に、これまでずっと振り回されてきてた。
いつも無意識に意識させて、あからさまに無防備な姿で、触れようとしても近付いては離れ、
掴みどころもなく気持ちを惑わせる。
……だけどそんなやり方が通じなくなったら、アンタはどうする?
オレが最後まで手を出すことはないって勝手に思い込んでるみたいだけど、
今までみたいに寸止めでかわしきれなくなっても、そんな余裕な顔してられる?
ただのヘタレ扱いしてるけど、それはアンタが受け入れる時を待ってただけ。
忘れてんじゃねぇの? オレがその気になれば本当は、全てを手に入れんのも簡単なのに。
これまでの忠告を無視して危険な賭けを続けてきたのはアンタの方だから。遊びはもう、
これで終わり。


無言でベッドに腰掛けたまま、不意に触れた彼女の指の先はドキリとするほど冷たかった。
けどその感覚も、動き始めた衝動を今さら止められるほどの力は持たない。
こちらに向けられた彼女の視線と引き換えに、晒してるような白い首筋に手を添えて、
咄嗟に何か言おうと開きかけた唇を塞ぐ。
一度重なれば火がついたみたいに周りの全てが見えなくなる。ただ触れるだけじゃ物足りず、
彼女を求める行為は次第に激しくなりやがて唇の端を割って乱暴に進入し、
奪い取るように舌を絡ませる。
いつにない激しさに驚いて、突き放そうとする彼女が細い腕でオレの胸を押してくるけど、
その邪魔な腕を取って逆にアンタの頭の上で壁に押し付けた。
自由を封じると、がら空きになった脇に入り込み、反対の肩をずれ落ちかけたカーディガンから
無防備にはだけた肩のラインへと、撫でるような仕草でわざとゆっくり唇を沿わせると、
さすがの彼女でも抑え切れない小さな甘い声を零れるように漏らした。
そのままキャミソールの肩紐をくわえてずらし、さらにその下の方へ。手首の自由を奪われたまま、逃げ出そうとして身をよじらせても、吸い付く動きに合わせるようにアンタの呼吸は徐々に短く浅くなる。

触れた体から早まる鼓動が伝わってくる。さっきまで冷たかった指の先もいつの間にか熱を持ち
白い頬は火照ったような桜色を帯びている。
だけどやめねぇし、やめる気もねぇし。アンタの中に本当は眠る本能を曝け出してくれるまで。
薄暗い部屋にどちらとも分からない息遣いだけが聞こえる。

ただ、いつも年上の余裕を覗かせるアンタの本気が見たかっただけ。
ただ夢中にさせたかっただけ。
オレに溺れてみせてよ、オレがアンタにそうさせられてる以上に。
皆に見せるいつもの涼しい顔じゃなく、自分だけにしか見せない表情が見たくて、
求めるまま力づくで奪い取り、噛みつくみたいに触れた唇を体の方へと落としていく。
食い込ますようにその肌を掴む指の先が、心の奥底まで触れることはできないと知っていても、
それでも少しでいいから、オレのために我を忘れるアンタの姿が見たかったから。

かろうじて肩に引っ掛かったカーディガンを火照った肌から引き剥がす。
一瞬彼女が飲み込んだ息が大きくなったような気がした。
覚悟なんてとうに出来てる、求める分だけもっと欲しくなる、届かないから手に入れたくなる、
分からないからそれを見たくなる。もっと、もっと欲しがるオレはワガママで、
だけど誰よりも真っ直ぐにアンタのことが好きで、今アンタを求めてる。
視線を散らす先に浮かんだ色づいた首筋をそっと撫でて、熱を帯びたその指先を
体の方へ向ける。

彼女を覆う最後の薄い布についに手をかけた時
−彼女の雰囲気がふと、今までと変わったような気がした。
見返したその瞳には、さっきまでのただ押されて戸惑うばかりの表情は無い。
彼女は視線を外すように目を伏せ、動きを止めたオレの方へと近寄り
その唇が肌に触れるすれすれの距離で、口元に笑みを浮かべオレに向かって囁いた。


 「……やっと、本気見せてくれたね」


……そっか。
アンタもまた、こうなることを望んだ上で、これまでオレに仕掛けてきてたってこと?
脳裏に並ぶ盤上の石。白でも一瞬で黒に変わり、その気になればいつだって簡単に形勢は
逆転する、これはまるでリバーシのように。アンタがそれを楽しむって言うんなら、
オレも乗ったフリをして最後まで付き合うぜ? だけど。それなら、
目を見開いて、微笑を浮かべた彼女の思惑を探るようにその瞳を見つめ返す。
 オレの次の一手が今度はアンタに読める?
…お望みどおりの本気を出したら、もう、後には戻れねえよ?

外から吹きつけた強い風が、大きな音をたてて一瞬窓枠を揺らし、部屋中の空気を震わせる。

やがてこの場所に再び、静寂が訪れる前に。

自らの影で包み込むように、
薄明かりに浮かぶ、わざと無防備に晒された白い首筋に牙を立てた。








(2011.4.19)