「ありがとうございました〜!」

………ハア。
元気良くお客を送り出す言葉も、さすがに今日は最後らへんが悲しみのため息に変わる。

今日のハロゲンもいつもどおり、いやぶっちゃけ、普段とは比べものにならないくらいに
マジで忙しい。

12月24日、いわゆるクリスマスイブのこの日、はばたき市にお住まいの皆さんも例にもれずクリスマスをご家族やカップルで楽しく過ごすための必須アイテムをこぞって買い求めにいらしてて。
今オレが、ご丁寧に店の外に設置された特設台で売りさばいてるクリスマス用のホールケーキも、さっきから結構な勢いで売れてってる。
オレの甘い言葉に釣られて思わず買いに来た人・・を除いても、
そんだけケーキみんなで食べる予定があるってことっしょ?それ。

買ってくお客さんたちの嬉しそうな顔と引き換えに、
オレの心の中に吹き込むスキマ風が寒い……
この忙しさでホクホク喜んでんの店長だけだって絶対。オレこんだけがんばってるし、
臨時手当てとかもらわないと割りに合わねぇってマジで。体力的なことよりほら、
精神的な意味で。

そもそもオレはなんでよりによって今日、こんな寒空の下で、
上から下まで愉快なサンタクロースに扮して陽気にケーキとか売っちゃってるわけ?
自分で言うのもなんだけど結構似合ってるのがまた悲しさもひとしおで。
・・・まあいっか。イブだってのに何も予定がないまま家で悶々と過ごすより、
バイトで潰れたとか、なんかそれっぽい理由のひとつもあった方がまだ気持ち的にラクだし……。

奮闘するオレを尻目にさっさと沈んでいく太陽の向こう側、暮れかかった空には小さく光る星。
見上げながら、ため息と混ざった大きな息をひとつ吐いた。

・・・・・・・・・・・・

「んじゃ、お先でーす」
「今日は助かったよ、ありがとうね!お疲れさまー」

やっとオレの精神修行が終わった頃にはもうとっぷり日暮れ、幸か不幸かイブも残り数時間。
店長のねぎらいの言葉を背に、いつもより数割増し疲れた気持ちでハロゲンを出た時、
寒そうに外で佇んでる見覚えのある後姿が目に入った。

「あれ…… ちょっ、アンタここで何してんの!?」
「あっ、ニーナお疲れさま!バイト終わるの待ってたんだ」
「こんな寒いトコで待たなくっても、中入ってれば良かったのに……」
「でも、仕事の邪魔しちゃ悪いと思って」
「そんなの邪魔なわけ………。 え、えっと、んで、何でココに?」
「……あのね、ケーキ買ってきたんだけど……。今日、今からうちで一緒に食べない?」

なにこれなにこれ!ああ神様いやサンタ様……!
今日一日けなげにがんばったオレに最高のクリスマスプレゼント?

「行く行く!……あーマジで今日バイト入っててホント良かった……」
「ん? 何か言った?」
「いやっ、なんでもねーし?ほら早く行こうぜ!
 ……あ、えと外で待ってて手とか冷えたっしょ? 寒かったら、その、手とか繋いでも」

パコッ!

突如後頭部に走る鈍い衝撃。

「……ってえ! ……あ、嵐さん!?」
「勝手に何やってんだ」
「い、いつの間に!?」
「最初からずっといた。お前がひとり気付かなかったんだろ」
「え、じゃあケーキ食べるってのも……」
「3人で、だ。」
「えぇ〜……」
「なにがえぇ〜、だ。当たり前だろ」

そんなオレらのやりとりを見ながら彼女がふふっと笑う。

「もう!クリスマスくらい仲良くね!」

行き交う人々を追い抜いて商店街を横切るオレたちの耳に、
どこか遠くから聞き覚えのあるクリスマスソングが流れ始める。
街全体をキラキラした光で包み込んで瞬く聖夜のイルミネーションに照らされて、
なんだかすごく楽しそうな二人の笑顔が浮かんだ。








(2010.12.24)