Twitterの「縛りSSったー(http://shindanmaker.com/15896 )」で出てきたお題。

【「熱帯魚」「蝶々」「スコーン」に関わる、「得意ジャンル」のSSを5ツイート以内で書きなさい】

というわけで即興で書いてみたもの。設楽先輩視点。全5ツイート(700文字弱)。


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部屋の隅に置かれた水槽がコポコポと味気ない音を立てている。雨の降りそぼる日曜の午後。
暗く沈む空から落ち続ける水滴が静かに線を描き、窓枠を斜めに横切ってゆく。

いつの頃からだっただろう。
こんなふうに気が付くと胸の淵まで溢れそうなほど、彼女のことを考えるようになったのは。
今までにこんなタイプの後輩はいなかった。
遠巻きに眺めてるだけの奴らの中で、何の恐れもなく近付いて、
無邪気なようで妖しげな、まるで蝶のように振舞う、いつだって俺はその言動に、表情に、
そしてどこか寂しげな瞳の奥の光に翻弄されたままで。

不意に扉をノックする音。「ぼっちゃま、お茶のご用意が出来ましたが・・・」
扉越しに掛けられる声に、ふと我に返る。
今日はそんな気分じゃない。いやこういう時こそ、気分を変えるべきなのかもしれないが。
「今日はいらない」そっけなく返事をした。
「・・そうですか」心なしか残念そうな物言いに、少し考えてから言い直す。
「・・やっぱり、後で食べる。」
「分かりました、ではスコーンを温め直しますので、召し上がる前にまた声をお掛けください」

階下に降りていく足音が、少し強まった雨が窓を叩きつける音に掻き消されていく。
また独りきりに戻った静かな部屋で、今日幾度目かのため息が零れた。

こんなどうしようもなくつまらない雨の日に、おまえは今どこにいるんだろう。誰といるんだろう。
まだ使い方もあまり把握できてない携帯電話が、役目も果たさずサイドボードの上に投げられ
ポツンと出番を待っている。
そんな俺の姿をまるで面白いものでも見るように、透明に隔てられたガラス越しの熱帯魚だけが眺めていた。







(2010.12.14)