ニーナ視点SS。あえて内容については何も書かないままで(否、書けない)


以下ご注意

☆R-15くらい。

☆超攻めバンビです。

☆途中何を思われようとも、とにかく、とにかく最後まで読んでみてください。


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ぬるいエアコンが効いてる天井の高い部屋。鼻をかすめる
どこか懐かしいような古い紙とインクの匂い。
セミの声がかなり騒がしくなってきた夏休み目前のある日。
夏真っ盛りの強い光の射し込む窓辺を避け、本棚に囲まれた一角。
隣には真面目にノートに向かう彼女の姿がある。
今日は放課後の図書館で、彼女と一緒に宿題やるって名目のお勉強デート中。

期末試験終わった後の図書館はさすがに利用者もまばらで、
見たとこ他にほとんど生徒の姿は見えない。
少し奥まった位置にあるテーブルに陣取り、ノートやら教科書を机いっぱいに広げてる。
……ここなら結構二人きりの気分味わえるし。

しばらくの間、黙って机に向かっていた彼女が、何か参考書でも取りに行くのか
急にすっと立ち上がった。
その姿を目の端に捉えながら、わざと気付かないフリで筆記を続ける。
それぞれの学年でいっつも同じくらいの順位取ってるオレらは時々、こうやって
どっちからともなく一緒に勉強していた。
上位キープすんのにはそれなりに水面下での努力も必要だし?
…それに、真剣な顔して勉強してる時の彼女も結構、好き。
結局一年の差がジャマして、同じ内容勉強できないってのは若干切なくもあるけど。
それでも、彼女がこうやって努力してる姿をオレだけが知ってるっての、結構気分イイ。
それにちょっと大人っぽく見える横顔を、今だけは独り占めできる気がして。

あまり効いてないエアコンのせいで少し蒸し暑い室内で、じんわりと汗がにじむ。
……それにしても彼女、帰って来るのちょっと遅くね?

どうかしたのかと思った瞬間、
不意に背後から、全身でオレを包み込むように覆いかぶさる温かい感触がした。
……ていうか、これってその、つまり後ろから抱き締められて……?

突然の展開に声を上げそうになる前に、細い人差し指が薄く開きかけた唇に押し当てられる。

何も言わないで、と彼女は無言のままオレに告げると、
背中とのわずかな隙間さえも埋めるようにさらに体を押し付けてくる。
よく見慣れた桜色の髪が流れるようにオレの肩にかかる。

事態が全く飲み込めないまま顔だけが火照ってく。
え、ちょっといきなりなんで、って疑問が拭えないオレをますます試すつもりなのか、
後ろからオレの首に巻き付くように白い腕が絡まった。
こんなシーン、ドラマとかでは見たことあるけど、実際にされるとめちゃくちゃドキドキして
鼓動の加速が止まんない。心臓の音が彼女にまで響いて伝わりそうなくらいに。
チラリと横に目を遣れば当然、くっつきそうなくらいの距離にある彼女の顔。
近付いてふわりと香る彼女の匂いが鼻腔を突いた。
どこか甘くてちょっと官能的で、油断すると堕ちて自分を見失いそうになる。
この匂いに包まれたいって確かに思ってたけど、まさかこういう形で
それが叶うとか思ってなかったし……

汗がじわりとにじんでくるのは絶対、効きの悪いエアコンのせいだけじゃない。
巻き付いてた腕がいつの間にかシャツの袖口から伸びた腕の方へ。
首周りを包むようにして肩の上に重ねられた手のひらから、
細い指が、二の腕からオレの手の甲へ向かい、肌に触れるか触れないかの微かな感触を残し
なぞるようにゆっくりと這わされていく。
くすぐるような仕草で指先が肌の表面を伝うごとに、まるで甘い魔法にでもかけられたように力が抜け身動きが取れなくなる。
そんなオレの様子を横目で見遣り、全てを見通したように彼女はクスリと微笑んだ。

「……どうしたの」

分かってるくせに。そのセリフ卑怯じゃね? こんな風にさせてんの、アンタの方なのに。

小悪魔。そんな言葉を今日ほど思い知ったことねぇし。
第一ここ、図書館だぜ? 今はたまたま周り誰もいねぇけど、
こんなトコ不意に誰に見られるか分かんねえのに……
そう。頭ではそう思ってる、思ってるけど、一方でこの感触ごと、
もうこのままここでアンタに堕ちてっても構わないって思いはじめてる。
逆らえない。どうなってもいい。アンタの指先が体を舐めるように妖しく触れる度に
心ごとみる間に溶かされていく。

そんなこと考えてるオレをまるで見透かしているように、
彼女がすぐ横から囁きかける吐息のような声が耳たぶの裏を撫でる。
言葉が発せられるたびに、こそばゆくてゾクゾクするような快感が体の奥を熱くする。
だんだん息がそばに近付いてくる。耳を甘噛みされるくらいまでそばに来た唇が、
突然息を止めるとふっと下へと下がった。
次の瞬間、首筋に感じる甘く吸い付く感触。
さすがに漏れそうになった声を、僅かに残った理性でもって夢中で押さえ込む。
そんな必死さを嘲笑うかのように、ますます柔らかく挟み込むようにして唇が這わされていく。
淫らにまとわりつくように首筋に触れたそれはゆっくりと、気が遠くなるほどにゆっくりと
下のほうへ動き始める。
もう、そろそろ限界。横から攻め続けてた彼女の肩を思いきり掴み起こすと、
婀娜めいて艶っぽく光る視線がオレに絡みつく。
引き寄せられるがままに、たった今まで首筋を辿っていたなまめかしく濡れた唇に、顔を近付けた−−


 …………ニーナ! ニーナ起きてってば!

「………ん?」

遠くから呼ばれる声にふと我に返る。
あれ、ここは……? てか今やってたこと……?

「もう、ニーナってば勉強の途中でぐっすり寝ちゃうんだもん。ここ、もうすぐ閉館の時間だよ?」

……え、なに、今の全部夢? まあ、そうだよなフツーに考えて……
ねぼけまなこをこすりながら辺りを見回すと、
陽が傾き始めた図書館からはすっかり人の気配もなくなっている。
……やっぱ、あんなおいしい話とかあるわけねぇよな。
でもちょうど今からってとこだったのに、なーんて。夢だとしてもちょっぴり残念だったりして。
…それに夢だったとしてもなんか、ちょっと今気恥ずかしいかも。

「ニーナ、顔赤いよ?」
「な、なんでもねぇし! 遅くなるからそろそろ帰ろうぜ!」

気付かれないように慌てて帰り支度始めるオレの目の端に映る彼女の顔。
その口が聞こえない声で−−でもはっきりと、こう動いたのをオレは見逃さなかった。

   キ モ チ ヨ カ ッ タ ?

「………え?」

ゾクッと背筋に寒気が走る。
意味深な微笑みを残しくるりと背を向け駆けてゆく彼女の後姿を、
オレはただ呆然と見送るしかなかった――







(2010.12.09)