2010/11/19、秋のニーナ☆フェス用に書いた、ほのぼの系ニーナ×バンビのお話。

前半と後半に分けて投稿したのをそのまま載せたため、
変な感じに繋がっていますがどうかお許しを。

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「これからね、流星群が見れるんだって!」

事の始まりは、放課後の教室で彼女が突拍子もなく言い出した、
いま巷を賑わしてるトピックだった。
息せき切ってオレの教室に現れた彼女が、いかにもビッグニュースみたいにさも嬉しげに
また一段と声を弾ませるもんだから、いつものことだとはいえ、
周りにいるやつらがチラチラ投げかけてくる視線がちょっとこそばゆい。

「しーっ、そんな大きな声で報告しなくても、みんなもうそれ普通に知ってるって!
 で、確か、今週末にピーク迎えるんだっけ?」

腰掛けてた机の上から慌てて制しつつ、
でも来てくれて内心ちょっと嬉しい気持ちを悟られないようにしてアンタの方へ向き直る。

「そう! ・・ねえ、今度の日曜日に、一緒に見に行かない?」
「えっマジで!アンタと二人で!? ・・・や、ちょっと待って、それってつまり・・・」
「もちろん、夜だよ!!」
「あぁーやっぱし・・・。」

明らかに動揺を隠しきれてないオレに構うことなく
早速、何着て行こっかな〜なんて嬉しげに予定立て始める彼女に気付かれないよう、
そっとため息をついた。

アンタと二人で大人っぽくナイトデートなんて、本来なら願ってもないチャンスだけどさ。
なんでよりによって、夜にアウトドアなわけ?
しかも高くて暗いところとか!お化けとか出たらどーすんの!
とは結局言い出せないまま、オレの日曜夜の予定は、
はばたき山に集う天体観測に否応なしに決定した。

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大きな不安を抱えたまま迎えた日曜日は、予想通り、朝から雲ひとつない
悲しいほどのお天気。
天候が崩れないかというささやかな願いも虚しく、運命の待ち合わせ時間がやってくる。

「ニーナー、こっちこっち!早く早く!」
「そんな急がなくっても山は逃げないって・・」

待ち合わせ場所でオレの姿を目にするや否や、嬉々として手を振る彼女。
あーもー、この天真爛漫な無邪気さが今日ばかりはうらめしい。

「なあ、やっぱり・・・」
「なあに?」
「・・・・・なんでもない」

流星群への期待に胸膨らませて、まるで子供みたいにキラキラ目を輝かせてる
アンタの顔見てたら、やっぱ行くのやめねぇ?なんて、とても言い出せない。

「大丈夫。はばたき山にはお化けいないよ?」
「マジで? ・・・いや、そういう問題でもないんだけど」
「もしいたら、わたしが退治してあげるから!」
「プッ。アンタのその勢いがありゃ、お化けも逃げ出すよなー多分」

心細さを押し隠して、ムリヤリ自分を鼓舞して笑う。
・・たぶん、場を明るく盛り上げようと一生懸命に頑張ってくれてるアンタのために。というかもう、
アンタのためだけに。でなきゃこんな時間にこんな所、他の誰に頼まれても来ないって!
ようやく腹をくくると、まるで戦場に赴くソルジャーの如く真剣な顔つきで改めて山に向き直る。


勇ましく足を踏み出したかと思えば、とぼとぼと後ろを付いて歩いてみたり。
だんだんと冷たくなってきた風に首をすくめ、見上げると遠くの空に小さな星がぽつんと見える。

暗闇に包まれたはばたき山は全てを飲み込んだように巨大で
来るものを拒むかのように静かにそびえ立ち、
道の端にぽつぽつと間隔を開けてぼんやり灯る街灯の明かりも
ずいぶん遠くに感じて、自然と足が速まる。

もうほとんど肝試しみたいな心境のまま、変な汗が滲んだ手のひらをもう一度きつく握り締めた。
閉ざされた夜の山道を進めば進むほど、不安と恐怖もエスカレートしていく。

これまで秋の紅葉の時くらいしか徒歩で登ったことのなかったはばたき山は
夜だと不気味に揺れる鬱蒼と生い茂った木々が、昼間とは全く違った表情を見せていて
それがまたより一層、輪をかけて、オレの恐怖心を煽る。

逃げ出したい気持ちをだましだまし、やっとの思いでようやく山の中腹まで来た時、
少し先を歩く彼女が突然、足を止めて振り返った。

 「あのね、この先に星を見るのにちょうどいい穴場があるんだよ」

なにこの、今夜の試練パート2が始まりそうな予感。
オレの背筋に流れる冷や汗なんかお構いなしにそう告げると彼女はこともなげに、
頂上まで続く無難なハイキングコースを外れ、ますます暗い脇道へと迷い込んでいく。

階段や段差や急な坂道や、しまいには人が踏み締めただけみたいなケモノ道も通る
何かの修行にはもってこいのルートを、明かりもろくになしの真っ暗なオレ的に最悪の状況の中、
おぼつかない足取りで必死に登っていく。
そもそも昼間でさえ山登りとかあんまりしたことないのに、
アンタと一緒でなきゃもう絶対、こんなことしないって。
というかヤダもうオレ、そろそろくじけそう・・・。

心が折れそうになりながら、暗く視界を遮る茂みを掻き分けるようにして
ただひたすら、お化けが出ない事を祈りながら進んでどれくらい経った頃か。
繁る樹木が消え、森を抜けたように突然視界が開けた。

暗いからよく分かんないけど、緩やかな斜面に広がる草原みたいな場所に出たようだった。
ところどころに自然にできた大小の岩があるくらいで、他に視界を遮るような物はほとんどない。

「見て!」

不意に上がった彼女の声に弾かれるように見上げると、
オレらの上に広がる空一面、見渡す限り、バケツひっくり返したみたいにあふれた輝く無数の星。
大きいのも小さいのも。冷たく澄んだ空気の中で、はるか彼方からやって来たその光が
細かくまたたいて。

ずっと見ていると、なんだか吸い込まれそうな気がした。
すごく不思議で、でもリアルで。
プラネタリウムなんて目じゃない、どんなアートもこの生の星空には敵わないって思えるほどに。
どっかの本で読んだ有名な星座もある。あれがオリオン座だっけ?その隣が、冬の大三角形?

今までただ、歩くことだけに必死で足元しか見てなかったから、ここに来るまで
全然気付かなかった。本末転倒って言われればそれまでだけど。

その分、心の準備なしに突然目に飛び込んできた空を覆う星々は本当に
言葉を失うぐらいキレイで、ここまで来るのに重ねた苦労も不安も一瞬で吹き飛ぶ。
あんなイヤイヤだったことを後悔しつつ、しばらく言葉も出ないまま、
夢中になって空を見上げた。

−−どれほど経ったか、ようやく我に返り、声を掛けようとアンタの姿を探す。

・・・・・。 あれ・・・? いない・・・

いつの間にか、ついさっきまで一緒に居たはずの彼女の姿が見当たらない。
目を凝らして周りを見渡した。でも広い草っぱらにひとりきり。
辺りはただ、闇がもたらす静寂に包まれているだけ。
急に不安が募る。鼓動が早まる。考えたくない嫌な想像が頭をよぎった。

とっさに名前を呼ぶ。もう一度。

けどその声は虚しく、真っ暗な夜の闇の中に吸い込まれていった。

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名前を呼ぶ自分の声だけが静寂の中にこだまする。

ついさっきまで確かにここに居たのに、
まるで神隠しにでもあったかのように忽然と消えた彼女。

ここに誰か他に居たとか? 彼女の身に何かあった?
・・あるいはもしや、お化けに連れ去られたとか?
軽くパニック起こしそうになるのを必死に落ち着かせ、
なけなしの勇気を振り絞って闇の中を探しに行こうとしたその時、

「ワッ!!!」

そばにある大きな岩陰から、大声を上げつつ彼女がぴょこん、と飛び出した。

驚いて危うく悲鳴上げそうになるのをすんでのところで押し留めると、
まだドキドキしてる胸を押さえて、状況が飲み込めないままアンタの顔を見つめる。

「ちょ・・・ アンタ何やってんの・・・」
「えへ。驚いた?? ちょっと隠れてニーナびっくりさせようと思って。」
「! ヒッデェ〜!! 驚かすにしてもTPO考えようぜ?? もー寿命2年は縮まったし・・・」

無邪気にペロリと舌を出す彼女の顔に、何事もなかったことを安堵しつつも、
無駄に張り詰めてた緊張の糸が切れるとなんかだんだん悔しくなって、
聞こえないくらい小さな声で背中にぼそっとつぶやく。

「マジで心配したのにさ・・・」

その声が届いたのかそうじゃないのか、彼女がちょっと先で立ち止まり振り向いた。

「驚かせてごめんね。・・・でもここ、すごく星がキレイでしょ?」
「うん。来て良かった。 そだ、今アンタが隠れてた岩に登ると
 もっと流星群良く見えんじゃね? ちょっとでも空が近付くし」

アンタの身長くらいの高さの岩にまずオレが先によじ登る。
そして下から登ってくる彼女を手伝い引っ張り上げた。
握った彼女の手があったかくて、なんかここにこうしてるのも思えば少し照れくさい。

高さはそれなりにあるけど狭い岩の上は、ようやく二人が並んで座れるくらいの広さ。
改めて隣に腰掛けると、真っ暗な中に二人きりってシチュエーションを急に意識し始める。
そういえばオレ今日ここに来るまで、考えたら全然デート楽しんでなかったし。

思いがけず、すぐ間近になったアンタの顔にちらりと目をやった。
星明かりに照らされた横顔が普段よりずっと大人びて見えて、不意にドキッとする。

岩の上で黙ったまま、そっと隣の手を握る。
こっちに向けられる視線。彼女の肩越しに見える風景と満天の星空。
もう今まで何度も手を繋いだはずなのに、なんでだろう、今日は今までで一番鼓動が早い。
二人きりの空の下で何も言葉を交わさないまま、繋いだ手に力を込めた。少しずつ、
アンタの顔に近付いていく。

あと、少し。瞳を閉じかけたその時、

「あっ流れたよ!!」

いつの間にか子供みたいなキラキラした顔に戻ったアンタが、
完全にオレの向こうを見ながら嬉しそうに叫ぶ。

「え?」

「流れ星!! ・・・あー消えちゃった」

思いきり肩透かしをくらってどうすることもできず、仕方なく、
もうとっくに星が流れ終わった遠い空を振り返る。
なんで今なんだよ流れ星のバカッ!と言いたいのを飲み込み、
気まずさに目を逸らしたまま、とりあえず言葉を探した。

「え、えーと・・・何か、願い事した?」
「うん、一瞬だったけど、多分間に合ったと思う」
「へえ?どんなこと?」
「・・・・・ニーナの彼女になれますように、って」
「ふぅん  ・・・へっ!?」

素っ頓狂な声を上げて、も一度アンタを振り返る。
いつの間にか、今日一番真剣な眼差しでこっちを見つめる彼女の頬が
みるみる赤く染まっていく。
多分、今オレも負けないくらいの速度で染まってると思うけど。

ちょ、そういうのってマジでズルくね?反則じゃね??
・・・マジでカワイイんだけど。

さっきまでキスしようとしてたのに、今それよか緊張させるとかさ・・・!
ホント、アンタのこと分かんねぇ。けど、

「−−−願い事、叶えたい?」

今度こそ。思いっきり優しい視線を落として。思いっきり優しく指を絡めて。
思いっきり優しく二人の距離を溶かして無くしていく。

潤んだ視線からはもうオレの方が逃れらんない。
降り注ぐような星空の下で、今度は星が流れないよう祈りながら、ゆっくりと口付けた。








(2010.11.21)